築100年を超えるような古い町家が残る、篠山城下町の旧街道沿い。その中に、暖かい光を灯す店がある。満月のような照明に誘われて足を踏み入れれば、そこには手作りの温もりに包まれたさまざまな品物が並ぶ。思わず夢中になって店内を歩き回り、ふと、顔をあげると目に飛び込んでくるのは中庭の鮮やかな緑。そんな中庭から店内に向かって心地よい風が吹き抜け、涼やかな風鈴の音が耳に届く。その瞬間、気持ちがふっ、とゆるんでいく。今回紹介する「SASAYAMA STYLE BREATH&ROY」は、そんな場所だ。
BREATH&ROYは築150年の町屋を改修したセレクト雑貨店、兼、コーヒーやビールも楽しめるカフェである。オープンしたのは2017年の4月。今でこそ古き良き空間そのものであるこの店も、実は改修するまで約20年間空き家だった。
「初めて物件を見た時は家財がそのまま残っているし、壁は崩れている、床は抜けている。それに家の中なのに水たまりがあったの」
そう言って笑うオーナーの細谷享弘(ゆきひろ)さん。そんな状態だったが、一目見た時から「ここはおもしろそうだなぁ」という直感があり、迷わず購入。10ヶ月かけてゆっくりじっくりと、思い描く店の形をつくりあげていった。
店に並んでいる品々は「手作り」にこだわる細谷さんが、直接、職人やメーカーから仕入れている。江戸時代、京と山陰を結ぶ交流地点だった篠山の、当時の人の流れ、物の流れをコンセプトに、京都、篠山、山陰地方で作られたものを主に扱っているというが、その物語性だけでも充分に惹かれてしまう。
「今は、物を買いたいだけならネットで何でも買える時代でしょ。手作りの工芸品だって、都会のデパートでも売ってたりする。時代も進んで、物流も進んで、何でも手に入る時代になった。でも、人はそれだけじゃ満足しない。その空間に身を置いて、感じたい、って思うんだよ。だから、わざわざ篠山に来て、ここで買う意味があると思う。この空間で、一息つく意味があると思う」
ただ、物を売るだけではない。見えるもの、聞こえるもの、口にするもの、そしてそこから感じ取るもの、ほぼ全てが都会とは違うこの場所で、篠山だからこそ手に入るものを持ち帰って欲しい。そんな思いが、BREATH&ROYの空間をつくり上げている。
小栗 瑞紀
生まれも育ちも神奈川県横浜市。就職を機に篠山へ移住し、人生初の田舎暮らしを満喫中。株式会社NOTEに勤務。古民家が好き。