先週縁あって、株式会社NOTEではある大学生をインターンとして受け入れていました。感想を書いてもらったのですが色々と学んでくれたそうで、せっかくなのでその内容をブログとして公開します。私達も改めて自分たちが取り組んでいることを見つけ直すきっかけをもらい、良い機会となりました。
=============================================================================================
こんにちは!私は普段、東京の大学で日本の伝統建築を中心に建築史を学んでいます。縁がありましてこの一週間、株式会社NOTEさんにインターン生としてお世話になりました。その中で、イチ観光者として感じたことを綴っていきたいと思います。
まず、私がNOTEさんに関心を持ったきっかけは、就活をしている時に「古民家を再生する」建設会社はあれど、「再生した古民家を使って事業をしている」会社はあるのかな、とリサーチをしている時でした。
大学生は時間はあるがお金はない。私はこれまで、バイトに明け暮れては、纏まった休みを利用して、自転車、青春18切符、バスツアー、車などで全国の歴史的建築を見学していました。そして、町そのものに魅力のあるところと、そうでないところでは滞在時間に比例して、町への関心度に差があることに気がつきました。
魅力的な建物やお店が多く開かれている町では、ついでにこの通りを歩いてみようとなりますが、点在している町では、史跡と資料館を見たら次の町に移動することが多く、東京へ帰ったあとも継続して関心をもつのは思い入れの強い前者の町でした。町のことを考える人が多ければ多いほど、地域は発展していきます。NOTEさんは、そのオペレーションを篠山で創り上げていました。
篠山城下町ホテルNIPPONIAは、篠山城を中心に、点在する古民家をそれぞれ客室として提供しています。ホテルのチェックインの受付がある古民家から、宿泊する古民家まで最大徒歩20分ほどかかる場所もあります。
城下町内に点在している空家をNOTEが改修し、宿泊施設などにしている。
これは一般的なホテルを想像すると”不便”と感じるかもしれません。しかしこの20分間はただの空虚な道を歩くのではなく、青山通り商店街で特産品を物色したり、伝統的建造物群保存地区で立派なお屋敷通りを見学したり、徳川家康が大阪城攻めの要の城として築城した篠山城を臨んだり、体験を伴う道のりです。その断続した通りを結ぶ要因のひとつが、同じ志を持ちNIPPONIAに参画しているギャラリーや食事処、雑貨屋など。町全体をデザインすることで、古民家風カフェが同じ通りに乱立…ということはなく、町に必要なものが揃う”通り”として機能しています。私が実際にこの道を散策していると、自転車ですれ違った見ず知らずの学生さんに「こんにちは」と声をかけられ、町の一員となった気分になりました。それも通りを歩かなければ出会えなかった経験です。
東京の青山は、篠山を治めた青山氏の下屋敷があったことが名の由来
武家屋敷群には今でも立派な屋敷が立ち並び、城下町の面影が伺える
篠山城大書院は二条城二の丸御殿に匹敵する規模
伝建地区では電柱の地中化工事が進む
そして、NOTEさんの一大プロジェクトであった「集落丸山」は、まさに夏休みのゲームの世界でした。朝、鳥の声で起きて、昼は冒険をしに、夜は屋根裏部屋の秘密基地で絵日記を書いて疲れて寝る。それが叶う場所だと思います。
藤原代表の肩に止まり、動こうとしないトンボ
私の後を追いかけてくる蝶々
虫あみなんぞ必要ないのではないかというほど、すぐそこに自然がありました。普段町では聞こえていても気に留めないカエル、鳥、虫、水の音、花、それらが全て美しいと感じることのできる気持ちの在り方の変化にどう名前をつけたらいいのかわかりません。
「限界集落」「12軒のうち7軒は空き家」情報が先行して、恐ろしさすら感じていた集落丸山はプロジェクト始動から今年で10周年を迎えるとのこと。私が感じるのは居心地の良さばかりでした。おばあちゃん家に何年かぶりに帰ったら「よく来たね」「久しぶりにゆっくりしていき」「せっかくだから特別なことをしよう」と存分に甘えさせてくれる雰囲気がありました。
「丸山に来た外部の人」としてではなく、「久しぶりに帰ってきた親戚」という雰囲気で迎え入れてくれる丸山の方の暖かさをたった数分で感じ取ることができ、自然と初対面の方に対する緊張がほぐれました。
集落にあるピザ窯で焼いてくださった自家製ピザ
みんなで窯の具合を確認
「やりすぎない、直しすぎない」
NOTEの方々からよく聞かれる言葉です。何十年、何百年前から在る建物が辿ってきた歴史を遺産として改修し、資産として運用していく。
町の建物を使うことで、既存の町と融合する。その地域の人が事業を展開することで、町の魅力の底上げをする。改修した建物のみならず、町全体のポテンシャルを上げていくことが、10年先、20年先に続く地域のエネルギーになる。その証拠が篠山にありました。
新材にわざわざ塗装を施したり、古材を部分的に利用した古民家風の建物が今ちょっとした流行りではありますが、古き良き雰囲気を求めるあまり、“古く見せる”ことだけに注力しているような建物が散見されます。朽ち果てた古建築を改修するより、基礎から新築を建てる方が、コストも工期も少ないからです。しかし、それでは結局建物の歴史は分断され、「なぜ、こんなに古くなるまで使われ続けてきたのか」という人が紡いできた歴史をも分断することになります。
百年保っている建物が、今すぐに使えなくなるはずはありません。ただ、どんなに良い建物でも人の気配がしなくなると、途端に朽ちてしまいます。持ち主の「建物を遺したい」という想いと、「地方で自分の事業をやりたい」という新しい人材を繋げていくことが、延いては古建築の保全、空き家問題、地方の過疎化、観光促進のきっかけになることを、今回のインターンで学びました。
そして、Uターン、Iターンの支援が盛んになっている昨今、その土地ならではの自然、風土、建築を感じることができる地方の利点を様々な形で提供・発信し、人と人を繋げることでさらに地方を豊かにしていく活動の一端でも担いたいと再度確信することができました。
この度はNOTEのみなさまをはじめ、城下町篠山、集落丸山、福住、氷見のみなさまには大変お世話になりました。ありがとうございました。
Nishikawa Hirosuke
大阪生まれ、東京での社会人経験を経て株式会社NOTEに参画。地域の独自性を尖らせていくことでしか地方部は生き残れず、その手段として歴史的資源を活用するというアプローチがあると思い、日々活動している。