前回に引き続き、事業がスタートした10年前、そしてこれからについての思いを綴っています。
*NIPPOINA10周年を迎えて思うこと(前編)を読んでいない方はこちらから。
2015年の篠山城下町ホテル NIPPONIAの開業を起点とするこの10年間で、NIPPONIA事業を取り巻く環境も大きく様変わりしました。
丹波篠山でのNIPPONIA事業の成功を背景に、2018年には旅館業法が改正され、現在では特別な制度(国家戦略特区)を活用せずとも、「分散型ホテル」の実現が全国で可能となりました。
また、古民家活用事業は社会的に「事業として成立し、投融資価値がある」というイメージに徐々に変化し、古民家に紐づく地域の歴史や暮らし文化にも価値があることが示されました。現在、古民家活用事業の事例は各地に増え、「分散型ホテル」のスキームも広く普及し始めています。そして、私たちと同じく古民家を活用したまちづくりを行う企業も増加しています。
NOTEとしては、これは目指していた夢の一端が叶っているものと認識しており、大きな成果だと感じています。
しかしながら、私たちが進める新しい価値創造への取り組みからハードルが無くなったわけではありません。
例えば、一部の金融機関においては未だに事業への十分な理解が得られていないのが現状です。そのため、現場ではその必要性や将来性を理解してもらうための高度な交渉スキルと緻密なロジック構築が求められ、大きな負荷となっています。
この重要な説得プロセスを組織全体で共有・仕組み化できていないことは、私自身の力不足であると痛感しています。
私自身、金融やファイナンス関連の書籍を無作為に読み漁り、独学で得た知識を社員教育として汎用化することの難しさを実感しています。「独学」は、どうしても属人的なスキルとなりがちです。それを組織全体の共通資産とするための方法を、日々模索し続けています。
このような課題の解決には、大学などのアカデミアとの連携を通じて、研究を深め、学術体系として整理していくことが不可欠です。
組織化を諦めて個人で事業を推進するのは容易かもしれません。しかし、それは特殊なスキルや能力を持った特定の一人に依存することを意味します。
また、たとえ奇跡的に実現した集落再生のモデルであったとしても、その存続は奇跡を起こし続ける特定の人物に依存することを前提としてしまいます。しかし、奇跡はそう何度でも起こるものではありません。
つまり100年という長い時間軸で考えた場合、属人的なモデルには持続性がないと言わざるを得ません。
篠山の挑戦が転機となり、NIPPONIA事業は急速に全国に広がるきっかけとなりました。
当初、「まちづくりをブランド化する」という戦略のもと、地域で展開するホテルに「NIPPONIA」の名称を冠したことは、一定の成果を収めました。
NIPPONIAの暖簾が、各地域におけるまちづくり活動のフラグシップ(狼煙)としての役割を果たし、まちづくり活動に大きく貢献したことは事実です。
しかしながら、その結果、「NIPPONIA」という名称がホテルブランドとして先行して認知されてしまい、「NIPPONIA=ホテル」という誤解を招くという新たな課題も生じています。
そこで、改めて「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」というビジョンにに立ち返り、NIPPONIAが果たすまちづくり活動としての認知を普及させていく必要があります。
その第一歩として、NIPPONIAブランドガイドライン刷新を行い、今後の認知拡大を計っていければと思います。
この10年間、歴史的建築物の開発に特化してきたNIPPONIA事業は、次の10年に向けてさらなる進化・真価が大切です。
NOTEが掲げるNIPPONIAのビジョン「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」のもと、今後は観光を起点とした「一日からの村人」を増やし、持続可能な地域社会を実現することを目指します。
具体的には、以下の挑戦を不可欠と考えます。
大切なことは、最先端を創りつつ、その裾野を広げていくことです。 無闇に先端だけを追求しても、汎用化できなければエコノミー(経済性)は失われるからです。
羅針盤なき時代において、人が本当に求める豊かさ、豊かに生き・豊かに暮らすことの意味は未だ明確ではありません。
私たちは、お金で全てを測るこれまでの価値観に視程が浅くなり、利便性と快適性の追求に邁進した結果、この国が古来より培ってきた時間の流れや文化を壊し続けているのが現状です。
私たちは、これまで各地の「暮らし文化」が息づく現場に立ち、数百年かけて築かれてきた先人の知恵(伝統工法や地域の営み)に真摯に学びながら、「日本の暮らし」が持つ本質的な豊かさについて深く向き合ってきました。
そして、この「暮らし文化」こそが地域の持続可能性を握る重要な鍵であると確信し、これを未来へつなぐために、仕事や経済の概念を再構築してきました。
一過性の非営利的な活動や補助金依存ではなく、自ら活動資金を生み出せる「事業としての仕組み(スキーム)」を通じて、地域の歴史や文化に投資価値があることを証明し、事業性を図る指標に変化をもたらしていくが重要です。
私たちは、この新しい時代の「日本の暮らし」を描きながら、文化や観光の概念、さらにはまちづくりや開発の概念そのものを、「点」ではなく「面」で捉え直す、再定義を続けていきます。
篠山で始まった挑戦は、築100年以上の建物の歴史から見ればほんの一瞬ですが、その一瞬の変化が次の100年の未来を作っていくのだと信じて。
vol.3は12月半ばころの更新を予定しています。
年末に向けて慌ただしくなる時期ですが、皆さんどうぞお体にはお気を付けください。
藤原 岳史