まちづくりの隙間から NOTE代表の徒然ノートvol.3

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「翻訳」と「金継ぎ」の地方創生クリエイティブ

 

2025年も、残すところあとわずかとなりました。一年の締めくくりは、自分自身の価値観や活動を
更新(アップデート)』する絶好のタイミングでもあります。

この一年、地域の中で見つけた景色を思い浮かべながら綴ります。

 

今回は、言葉ではなかなか言い表せない「地方創生とクリエイティブ」について、例えばなしを通じて語ってみたいと思います。
10月にNIPPONIAが10周年という節目を迎え、振り返ればこの10年、日本中のあちこちにある「古いもの」と向き合ってきました。


最近では新潟県の「NIPPONIA 佐渡相川 金山町」が、米TIME誌の『World’s Greatest Places 2025』に選ばれるといった嬉しいニュースも増えてきています。

 

昨年オープンした「NIPPONIA 佐渡相川 金山町」

 

けれど、現場でよく耳にするのは、意外にもこんな言葉。
「ここには空き家くらいしか、何もない…」

地元の人にとっては当たり前の日常。でも、僕ら「ヨソモノ」の目で見れば、そこには宝石のような価値が眠っている。
木立を抜ける風の音、おくどさん(竈)から上がる煙、数百年続いてる祭り…。

僕らの役割は、例えるなら「地域の翻訳家」です。
地元の人さえ気づいていない価値を、現代の私たちがワクワクする「
コト」へと変換する。それが、僕らが考える地方創生の第一歩です。そして、そこで一番重要なのは「創りすぎないクリエイティブ」だと考えています。

「観光客」を「村人」へと翻訳する

もう一つ、「翻訳」という視点が大事になるのが、まちづくりの現場ではないかと感じています。
例えば、訪れる人を単なる「
観光客」ではなく、「一日からの村人」という存在として捉える。

そうすると、「非日常」を切り売りするのではなく、地域の「日常」に没入してもらいたくなる。 地元の住民と「おかえり」「ただいま」と言い合える関係が大切になる。一度きりの宿泊客が、地域を共に支える「関係人口」へと変わっていく。

そんな魔法のような変化を、クリエイティブの力で起こしていくことが地方創生の正体ではないでしょうか。

 

まちづくりにおけるクリエイティブとは「更新」すること

「クリエイティブ」と聞くと、ゼロから新しいものを作る姿を想像するかもしれません。 でも、まちづくりにおける本当のクリエイティブとは、旧いものを大切にしながら、現代の仕組みに合うように「アップデート(更新)」し続けることにあると僕は思っています。

例えば、古民家を再生する際、僕らはあえて「煤で黒くなった壁」や「柱の傷」を残します。 それはその建物の歴史、つまり「ストーリー」だからです。 「ミニマムインターベンション(最小限の介入)」という手法を取り、いつでも元の姿に戻せるようにしておく。
創りすぎない空間に身を寄せた時、そこにクリエイティブが生まれるのです。

これは「新しさ」に逃げるよりも、ずっと創造性が求められる作業です。 先人の知恵が詰まった建物に、現代の快適さを溶け込ませる。
この
「なつかしくて、あたらしい」融合こそが、僕たちの目指す形です。

 

もう一つ、例え話をします。

最近、全く異なる地域で「金継ぎ」についてご縁を感じています。
その時にふと、まちづくりという仕事は、陶磁器の割れを漆と金で繋ぎ、新たな価値を生む「金継ぎ」というクリエイティブに似ているのでないか、と考えました。

地方には、人口減少や建物の老朽化といった「ひび割れ」がたくさんある。それを隠すのではなく、あえて歴史の証として美しく繋ぎ合わせる。欠けているからこそ、そこに新しい光が宿る美しさと豊かさを感じることができる

 

提供:藤村本家 漆・金継ぎ工房(https://www.fujimura.house/ja

 

100年先へ物語を繋ぐ

NOTEとして僕らの仕事をたとえるならば、「古くなった名画の修復と、その物語の再出版」のようなものではないかと思うのです。 色あせて放置されていた地域の歴史(名画)を、現代の感性で丁寧に修復し、新しい解説(ビジネスや体験)を添えて世界中に届ける。 そうすることで、その物語は未来の読者へと読み継がれていく

まちづくりはイベントの連続では成し得ることはできません。 また、スーパーマンのような人しかできない状態では持続しません。

私は本気で「まちづくり業」を、今の子供たちが憧れるような、持続可能でかっこいい職業へと昇華させたいと思っています。その職業が必要とするスキルの一つにクリエイティブ思考はかかせません。

地域の個性を尊重し、その土地に眠る言葉を現代に翻訳し続ける。 そうすれば、日本の豊かな暮らし文化は、100年先も途絶えることなく続いていくと信じています。

 

ひび割れさえも美しさに変える金継ぎのように、今年起きた全ての出来事を糧にして、また新しい年を彩っていければと思います。
皆様にとって、来年が光に満ちた素晴らしい一年となりますように。どうぞ良いお年をお迎えください。




<ご案内>


2026年1月21日(水)、正に「クリエイティブ」をテーマにした対談イベントに登壇します。
対談のお相手は、クリエイティブディレクター・フィルムディレクターとして幅広く活躍されている市耒 健太郎さん。
NIPPONIA事業が生み出すクリエイティブについて、わくわくするディスカッションを繰り広げたいと思います。

オンライン配信・参加費無料となっているので、是非多くの方に聞いてもらえたら嬉しいです!
以下のURLよりお申込みが可能です。

NIKKEI CREATIVITY PROJECT

 

藤原 岳史

株式会社NOTE 代表取締役
一般社団法人ノオト 代表理事
1974年兵庫県生まれ。大学卒業後、食品会社に勤務。その後、米国に1年間留学し、情報システムを学ぶ。2001年より東京・大阪のIT企業に勤務し、マーケティングやコンサルティングに携わる。2009年、地元の丹波篠山に戻り、一般社団法人ノオトに参加。2016年、株式会社NOTEを創業。以降、「篠山城下町ホテルNIPPONIA」を皮切りに、北海道から沖縄まで全国30地域以上に展開。