株式会社NOTEは、丹波篠山の城下町で「町全体が一つのホテル」というコンセプトのもと篠山城下町のまちづくりに取り組んでいます。空き家になってしまった町家や古民家を改修、店舗や宿泊施設として再生し、地域が継続していくための歯車を地域内に作り出しています。
この度、その取り組みの一環として昨年の秋より改修していた町家が、新しい店舗として生まれ変わりました。
今回は、そんな新店舗で篠山の食文化を紡いでいこうとする料理人、前川さんとそのお店のご紹介です。
ちょうど今から3年前、篠山城下町の西の端っこに僅か10坪ほどのチャレンジショップがオープンしました。それが「山里料理 まえ川」。
2020年6月、その「まえ川」が今度は城下町の東側に場所を移し、新しい挑戦を始めます。
「山里料理 まえ川」のオーナーである前川 友章(まえかわ ともあき)さんは篠山の出身。料理人修行のため一度篠山を離れましたが、将来は篠山に戻って自分の店を持つことを目標にしていました。その目標が叶った今回の移転オープン。前川さんが篠山で挑戦したいこと、そして料理に向き合う想いを聞きました。
◆料理人の原点は、おばあちゃんの作ったきんぴらごぼう
「きんぴらごぼう、ありますよね。」
なぜ料理人になったのか前川さんに尋ねたら、こんな答えが返ってきました。
「子供の頃、おかんが夕飯にきんぴらごぼうを作ってくれたんですよ。醤油で炊いたオーソドックスなやつ。その翌日、おばあちゃんの家に遊びに行ったら、おばあちゃんもきんぴらごぼうを作ってくれたんです。」
そのきんぴらに、前川さんは強い衝撃を受けたのだと言います。
「おばあちゃんはきんぴらごぼうに少しだけマヨネーズを入れていたんです。そうすることで野菜の味と香りが引き出されて凄まじくおいしかった。同じ料理でも、調理のちょっとした工夫でこんなに味が変わることをとても面白く感じました。その時に『おばあちゃん、こんなにおいしい料理を作れるんだ』とすごく印象に残ったんです。その時から、将来、おばあちゃんが作るような料理を出すお店を作りたいと考え始めました。」
前川さんがお店で出す料理は、篠山の地のものを使った和の料理。料亭で出される料理よりも親しみやすく、家庭で食べるよりも少しだけ特別感があるその料理の根底には、前川さん曰く「おばあちゃんが、子供や孫たちのために腕によりをかけて作った料理」があります。
そして、篠山のおばあちゃんが作る料理が何よりもダントツで美味しい、という信念を持つ前川さんには、だからこそ、料理人として目指したい夢があります。
◆篠山だから食べられる「篠山料理」を確立したい
ここ、丹波篠山は典型的な農村地域。5月になればあちこちで田植えが始まり、秋になれば特産の黒枝豆や山の芋の幟が立つ、豊富な農産物の生産地です。前川さんが料理人修行をしていた京都や大阪のお店でも、篠山の野菜はたくさん仕入れていたそうです。
「そういうお店はすごくいい食材をいろんなところから集めてきて、その食材を使って1万円とか2万円の料理を出します。でも、野菜を作った篠山の人たちはそんな事知りません。篠山のお母さんやおばあちゃんが同じ食材を使って作った料理の方が美味しいのに、それも本人たちは知らないし、料理だって評価されません。」
そのことに対して、前川さんはずっと、どこかモヤモヤとしたものを感じていました。
地元の食材を美味しく調理する技術が地元にはちゃんとある。それは昔ながらの家庭的な工夫や知恵の集大成です。けれど、あまりにそれが身近すぎて、その料理にスポットライトが当たることはなく、誰かに評価されることもありません。それが、前川さんにはとてもじれったいものでした。
「確かに、普通の家庭料理のままで、料理として評価されるのは難しいと思います。盛り付けとかも家ではそんなに綺麗にできないですし。だから僕は、地元で作っているおばあちゃんの料理を原型にして、そこにもうひと手間加えた料理を作ろうと。それで、僕の作った料理を食べて、地元で作られてきた昔ながらの篠山の料理ってこんなに美味しいんだ、ということを外の人にも地域の人にも知ってもらいたい。そういう料理を『篠山料理』として確立したいんです。」
篠山では美味しい料理が食べられない、と言って多くの人はわざわざ京都や大阪へ食事に行ってしまう。それがとても悔しくて歯がゆい。前川さんはそんな状況を自分の作る『篠山料理』で切り開こうとしています。
◆新しいお店と新しい挑戦と
今でこそ、自分の目指す『篠山料理』の形が見えてきたというものの、3年前にチャレンジショップとして始めた頃はとても怖かったと言います。
「篠山料理を作りたい、という想いはずっとありましたが、京都料理とおばあちゃんの料理しか知らなかったので最初はどうすればいいか分からなかったです。始めの頃は、出す料理に全然自信がありませんでした。」
それでも3年間試行錯誤を繰り返し、やっと最近、自分の信念に適う料理の塩梅が掴めてきたという前川さん。新しい店舗に移りいろいろとチャレンジしたいこともあるそうです。
「炭焼きがしたくてそのための設備を造りました!ジビエも解体からしたいので解体スペースも付けてもらいましたし(笑)。料理も、京都で学んだことで出しきっていないことがあるので、新しくやりたいことはたくさんあります」
お惣菜のテイクアウトも常時行っていきたいと前川さんは考えています。お店で出すよりは価格を低く出来るテイクアウトは、地域の方も日常的に利用しやすいというメリットがあります。篠山の人に自分の作った料理を食べてもらいたい。そして、「こういう漬物、あったよね」「昔食べた実家のおかずと味が似ていて美味しい」なんて思ってもらえることが少しでもあればいい。それが、前川さんがテイクアウトを始める理由です。
◆始まりの地に戻って、ここから
おばあちゃんの作った料理から料理の道を志し、料理人として篠山に戻ってきた前川さん。目指すべきところは少しもぶれていませんが、外に出て学んだことは調理の技術以外にもたくさんあったと言います。
例えば、お客様に対する姿勢、心の掛け方。
「京都で働いていた時、一番学んだのはお店で働く女将さんや仲居さんからです。お店の仲居さんが足を骨折したことがあって、それでも一人で切り盛りしているからってお客さんのために店に来るんです。それを見て、自分だったらそこまでできるだろうか、と。仕事に対する仲居さんの姿勢に、ただただ頭が下がりました。」
仲居さんも、師として仰ぐ料理人の大先輩も、共通して言うことは「どうやってお客さんに喜んでもらうのか」。美味しい料理を作るだけが料理人ではないことを修行中に身をもって学んだそうです。使う器、料理を出すタイミング…。考えなければならないことはたくさんありました。
「今でも、『何も考えてへんやろ。ずっと考えなあかんで』と怒られます。」照れたように前川さんは言います。
料理に対する信念、師匠達の存在、その他にも、前川さんのモチベーションとなっている人たちがいます。それは、食材仕入れ先の生産者さんや、器を提供してくれる職人さん。
「イベントなんかでお世話になった陶芸家さんに、『自分も若い頃は料理人さんにお世話になったから』とお店で使う器をいただくこともあります。豚肉を仕入れに行ったら、金額よりも少し多めに『こんくらい持って行きー』って言ってもらうこともあります。めっちゃ良い人たちですよ。そういう人たちがいるから、やらなあかん、というか。」
色々な人たちに支えられてお店で料理が出せる。そう考えると、自分の想いだけを伝えるのではなく、自分に協力してくれた人たちの想いも伝えたい、伝えていかないといけない。お店を始めて、前川さんはそう思うようになったそうです。
前川さんにとって、新しいこの店は「篠山料理を確立したい」という目標を形にするための舞台。
「これからも試行錯誤です。でも一番大事なのは、どうやったら食べた人が喜ぶのかということです。それだけです。」
篠山城下町で篠山の料理を。
「山里料理 まえ川」、ぜひ一度お越しください。
※2020年6月1日現在、コロナの感染拡大を防ぐため、店内での飲食は事前予約のお客様のみとなっています。また、店内の常時換気、入店時のアルコール消毒を実施しています。
※テイクアウトは引き続きおこなっています。ご利用の前に、一度お店にご連絡をお願い致します。
≪店舗情報≫
●店舗住所:兵庫県丹波篠山市立町93
※JR「篠山口駅」下車
駅から神姫バス「篠山営業所行」に乗り「下立町」バス停から徒歩3分
●連絡先:090-2065-4595
●営業時間:LUNCH 11:30~14:00(L.O.13:00)
DINNER 17:30~22:00(L.O.20:00)
●定休日:月曜日
●予算目安
LUNCH(季節のコース料理)
①2,200円コース ②3,200円コース ③4,500円コース
DINNER (季節のお料理と炭火料理のコース)
3,800円~
※金額は全て税抜きです。
※予算、コース内容などは相談に応じて対応可能。
小栗 瑞紀
神奈川県横浜市出身。NOTEへの就職を機に兵庫県丹波篠山市へ移住し、篠山での暮らしを満喫中。そろそろゴルフを再開したい。